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脚本・編集:そんちゃん​

cast

ルビ:そんちゃん

ノッカー/マーチ:りん

マザーノッカー:しじみ

1:06:58


『開くもの』よ。

私の声が聞こえますか?
私の想いが届きますか?

私には、あの方の望みを叶えて差し上げる事が出来ません。


『開くもの』よ。

どうか、あの方の力になって下さい。

あの方の願いを叶えて下さい。

それが、私のたった一つの願いでもあります。


永遠の牢獄に閉じ込められた…悲しい少女を……

…どうか…どうか……

……………

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<戦闘終了>

  ルビ「あ~あ、またハズレ。
     でもまぁ、この間の奴よりは楽しめたかなぁ。
     くすくす。

     …あれあれぇ?もう死んじゃったの?あっけないな…」

<ノッカーが走ってくる>

ノッカー「ルビ様ぁ!
     すみません。また僕が足を引っ張っちゃって…」

  ルビ「いつも言ってるでしょ?気にしなくていいって。」

ノッカー「はい…でも…」

  ルビ「ね?お前は私の傍にいるだけで良いんだよ。」

ノッカー「…。」

    (ルビ様は強い。
     これまで何人もの『開くもの』と戦って来たけど、一度だって負けた事がないんだ。

     それに比べて僕は…

     ノッカー族は、魔族の中で最下級の存在。
     その中でも更に出来損ないなのが僕。

     少しでもルビ様のお役に立ちたくて、魔法だって頑張って練習した。

     だけど… どんなに頑張っても上手くいかないんだ。

     ルビ様は、そんな僕にいつも優しい。
     僕が落ち込んでいると、いつも頭を撫でてくれる。

     僕はそんなルビ様が大好きなんだ。

     ルビ様が望んでくれるなら、僕はいつまでもルビ様の傍に居たい。)

 

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<戦闘終了>

  ルビ「またハズレ。いつになったら…」

ノッカー「…ルビ様?」

  ルビ「ふふ。そろそろこの『遊び』にも飽きてきちゃったなぁ。」

ノッカー(そう言って、ルビ様はいつものように僕の頭を撫でてくれた。

     だけど、今日のルビ様はいつもと違う気がした。

     たまにだけど、ルビ様は僕をとても悲しそうな目で見る事がある。
     僕を見ているのに、僕じゃない誰かを見ている、そんな気がするんだ。

     そんな時のルビ様は、何だか酷く辛そうで…

     見ている僕も悲しくなる…

     ルビ様…
     何をそんなに苦しんでいるの?

     僕にもっと力があったなら、ルビ様の心を少しでも癒す事が出来たのかな…)

 

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<夜、目覚めるノッカー>

ノッカー「…う、うーん…  …?  あれ!?」

         (その夜、ふと目が覚めると傍に居たはずのルビ様の姿がなかった。)

    「ルビ様…? 一体何処に…」

<走るノッカー>

ノッカー(胸がドキドキする…

     ルビ様…ルビ様…ルビ様…!)

  ルビ「……たい。」

ノッカー「!?…あの声は!」

<少しずつ近づく>

  ルビ「私はいつになったら解放されるの?
     もう、ハズレしか居ないんじゃないの…?」

ノッカー(ルビ様は、たった一人で大きな岩に座っていた。
     他には誰もいない。

     その姿が、今にも消えてしまいそうに思えて、不安で堪らなかった。

     『ハズレ』って何?
     『アタリ』だとどうなるの?

     それに、最初に微かに聞こえた言葉は…)

<ガサッ>

  ルビ「誰っ!?」

ノッカー「る、ルビ様。ご、ごめんなさい…僕…盗み聞きするつもりじゃ…」

  ルビ「なんだ、お前なの。こっちにおいで。」

ノッカー「はい…。
     あの…ルビ様はどうしてこんな所に?」

  ルビ「私は、ちょっと考え事よ。
     『開くもの』とどうやったらもっと楽しく遊べるかな~とね♪」

ノッカー「そう…ですか…」

    (ルビ様はいつも通り優しく頭を撫でてくれる。

     だけど僕は、さっきの言葉が気になって仕方がなかった。)

 (ルビ「……たい。」)

ノッカー「ルビ様…。ルビ様はどうして『開くもの』と戦うのですか?」

  ルビ「くすくす。
     そんなの面白いからに決まっているじゃない。」

ノッカー「ハズレって…何ですか?アタリだったらどうなるんですか?」

  ルビ「どうしたの?今夜は。」

ノッカー「教えてください!僕は…少しでもルビ様の役に立てていますか?」

  ルビ「…お前が傍に居てくれるから、私は私でいられるの。」

ノッカー「ルビ様がルビ様で…?」

  ルビ「そうよ。

     …そうね。お前は知っておいた方が良いかもしれない。」

ノッカー「?」

  ルビ「お前にも関係のある話だから…」

ノッカー「僕に…?」

    (そうしてルビ様は、僕の頭をゆっくりと撫でながら話をしてくれた。)

 

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  ルビ(始まりは、今から4000年前。
     軍神リヴェリウスと女王アルカディアによってアルカディア帝国は興された。

     アルカディア帝国は、リヴェリウスの力と知恵によって、
     あっという間に世界を支配する程の強大な国になった。

     でも、しばらくして女王アルカディアは、何者かに暗殺された。

     アルカディアの魂を定着させる器として、
     リヴェリウスは、自分の体から一体の人形を作り出した。

     その人形が私よ…。

     だけど、その時、その人形にはアルカディアの魂は入らなかった。

     失望したリヴェリウスは、その人形を神殿の奥深くに幽閉したの。

     今でも忘れられない。
     アルカディアが戻らなかったと解った時のリヴェリウスの横顔…。

     私の名前を一度も呼ばなかった。
     私の事を一度だって見なかった…


     幽閉された私は、生まれた意味も、存在する理由さえも解らずに
     ただ与えられた薄暗い部屋の中に居た。

     誰もその部屋には近づいても来なかったけど、
     その時は、感情なんて無かったから寂しいとも思わなかったわ。

     どれだけそこで一人で居たかなんて解らない。

     でもある日、異変が起きた。
     今まで一度だって開かれることのなかった扉が開いたの。

     私は、なんの感情も持たないまま、扉からこぼれる微かな光を見ていた。

     そして、その向こうから一つの影がゆっくりと部屋に入ってきた。)

マザーノッカー「ルビ様…」

  ルビ(影はゆっくりと私に近付くと、静かな声で語りかけて来たの。
     私は、何を言っているのか解らなかった。
     ただ、初めて聞くその声が何だか心地良く思えた。)

マザーノッカー「ルビ様。」

  ルビ「…ルビ?」

マザーノッカー「そうです。貴方様のお名前です。」

  ルビ「名前…」

マザーノッカー「私は、マザーノッカーと申します。」

  ルビ「マザーノッカー…」

マザーノッカー「これからルビ様のお世話をさせて頂くことになりました。
        何なりとお申し付け下さいね。」

  ルビ(私は、その時初めて声を出したの。
     自分に名前があったという事も、自分に声という物がある事すら知らなかったのよ…

     それから、マザーノッカーは私に色々な事を教えてくれた。
     魔力の使い方、この神殿の外にはどんな世界が広がっているのか。

     マザーノッカーの話す全てが、私にとっては不思議で素敵だった。

     それまで、ただ其処に居ただけだった私は、
     その時、やっと産まれ出られたような気がしたの。)

 

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マザーノッカー「さて、今日は何のお勉強をしましょうか。」

  ルビ「ねぇ!また外の話を聞かせて?」

マザーノッカー「ふふ。ルビ様は本当に外の話がお好きなのですね。」

  ルビ「だって、私はこの部屋の中しか知らないから…」

マザーノッカー「そうですね…
        リヴェリウス様のお許しが早く出ると良いのですけれど…。」

  ルビ「…そんなの無理だよ。
     リヴェリウスは、私の事なんて忘れてる…」

マザーノッカー「ルビ様…。」

  ルビ「…。」

マザーノッカー「では、今日は私の故郷のお話をしましょうか。」

  ルビ「フルサト…ってなに?」

マザーノッカー「自分の生まれた場所の事です。」

  ルビ「生まれた…場所…」

マザーノッカー「私の故郷は、ノッカーランドといいます。

        ノッカーランドは、空に浮かぶ雲の上にあります。
        そこでは、たくさんのノッカー達が毎日魔法の練習をしていました。

        私も、そこで双子の兄弟と一緒に修行をするのが日課でした。」

  ルビ「キョウダイ?」

マザーノッカー「ちょっと気の弱い子でしたけど、心の優しい子です。
        私がルビ様のお世話をする事が決まった時も、心から喜んでくれました。」

  ルビ「…その子と会えなくなって寂しい?」

マザーノッカー「…そうですね。寂しくないと言ったら嘘になるかもしれません。
        でも、私にはもっと大切な事が出来てしまったのです。」

  ルビ「…?」

マザーノッカー「ルビ様。私は、ルビ様のお傍に居られる事が、今、何よりも幸せなのですよ。」

  ルビ「私…?」

マザーノッカー「そうです。
        例えこの神殿から出る事を許されなくても、
        こうしてルビ様と過ごせるだけで、私は幸せなのです。」

  ルビ「…」

マザーノッカー「でも、そうですね。
        もし、外に出る事を許されたら、一緒に私の故郷へ行きましょう。
        きっと、あの子も喜びます。」

  ルビ「うん、私もその子に会いたい!」

マザーノッカー「ふふふ。」

  ルビ(私にとってのフルサトは、薄暗いこの神殿。
     そして、それが私の全て…

     だけど…だからこそ、マザーノッカーの話すその世界を見てみたいと思った。
     マザーノッカーの大事なキョウダイにも…)

 

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マザーノッカー「ルビ様、今日は神殿の外に生きる者のお話をしましょう。」

  ルビ「うん」

マザーノッカー「外には、以前もお話したようにとても広大な世界が広がっています。」

  ルビ「空と海と大地があるんでしょう?」

マザーノッカー「そうです。
        そして、その世界には沢山の生き物が居るのです。」

  ルビ「どんな生き物が居るの?」

マザーノッカー「翼を持ち空を自由に飛ぶ者、海の中に生きる者。
        私はその生き物達のほんの一部しか知りませんが。

        それ程、世界は広く生命に満ち溢れているのです。」

  ルビ「私みたいなのも居る?」

マザーノッカー「そうですね。
        『人』というルビ様と姿形が似ている者は居ます。」

  ルビ「それってどんなの?強いの?」

マザーノッカー「人は、魔力が無い者が多く、ある者でもルビ様程の魔力を持つものはおりません。

        ルビ様は、リヴェリウス様のお力を授かる身。
        きっとこの世界のどこを探してもそれ程の魔力を持った者は居ないでしょう。」

  ルビ「なんだ…つまんないの。」

マザーノッカー「ふふ。
        ルビ様は、お力を試されたいのですね。」

  ルビ「そうよ。ここを出て思いっきり力を使ってみたいわ。」

マザーノッカー「そうですね。ルビ様はもうとっくに私の魔力も超えてしまわれました。」

  ルビ「そんな事ないわ。マザーノッカーは強いもの。」

マザーノッカー「ありがとうございます。

        人は、魔力が無い代わりに知恵を使い、皆で協力し合って生きています。
        田畑を耕し作物を育て、罠を使って狩りをします。」

  ルビ「へぇ。」

マザーノッカー「しかし、人は…魔族を忌み嫌っています。」

  ルビ「え?」

マザーノッカー「人と魔族は、遠い昔から相容れない関係なのです。
        人は魔族を恐れ、魔族もまた人を恐れ…

        私も以前は、人間を恐ろしいものだと思っていました。
        そう教えられて来ましたから。」

   ルビ「今は?」

マザーノッカー「今は……解りません。」

   ルビ「わからない?」

マザーノッカー「はい。

        …一つ、お話をしましょう。」

   ルビ「?」

マザーノッカー「私が、ルビ様のお世話役を仰せつかり、

        この神殿へと向かっている途中での事です。

        少し休もうと立ち寄った森で罠にかかってしまいました。
        罠には魔力を封じる力があり、逃れようともがくほど深く私を傷つけました。

        やがて力尽き、ふと顔を上げると
        少し離れた木の陰からそっと覗く影がありました。

        しばらくして、影はゆっくりと私に近づいて来ました。
        それは、人の子でした。

        私は、これで終わりだと思いました。
        殺される、と…

        しかし、その子は罠を外し、傷の手当てを始めたのです。

        その子の手当てと、罠から逃れた事によって魔力が回復したのとで
        傷はすぐに塞がり、やがて動けるようになりました。

        そして私が立ち上がると、その子はにっこりと微笑んだのです。

        私は驚きました。
        人は、魔族を見つけると殺すと教えられていましたから。

        その子だって、魔族の恐ろしさは知っていた筈です。
        手当てをしている間、ずっと震えていた手を思えば容易に解ります。

        それでも…
        怯えながらも私を助けてくれた小さな手を思うと…解らなくなるのです。」

  ルビ「そうなんだ…」

マザーノッカー「ですがルビ様。
        魔族を嫌う人間が多い事も事実です。
        ルビ様程ではなくても、強力な魔力を持つ者も居ます。」

        ルビ様を傷つけようとする者も現れるかもしれません。」

  ルビ「うん。
     でも、どうして私はそんな生き物の形をしているんだろう。」

マザーノッカー「…アルカディア様が人間でいらっしゃいましたから。」

  ルビ「アルカディア…? あぁ、私の中に入れようとして失敗したんだっけ。」

マザーノッカー「リヴェリウス様は、アルカディア様をとても大切に思われていたそうです。」

  ルビ「ふぅん。

     じゃあ、私の中にアルカディアが入れば、リヴェリウスは私を見てくれるのかな。」

マザーノッカー「ルビ様…。
        ルビ様は、リヴェリウス様のお体からお生まれになった。
        分身と言ってもいいでしょう…
        きっといつか、ルビ様を想って下さる日が…」

  ルビ「そうかな…。」

マザーノッカー「…。」

  ルビ「でも、私はマザーノッカーが居てくれればいい!
     体をくれたのはリヴェリウスかもしれないけど、

     心をくれたのはマザーノッカーだから。」

マザーノッカー「ルビ様…。
        私は、いつまでもお傍に居ります。
        ルビ様と共に在る事を永遠に誓いましょう。」

  ルビ(リヴェリウスはその後も姿を見せる事はなかった。

     出る事を許されない部屋は、窓もなく太陽の光さえ届かないけれど、
     私はマザーノッカーさえ居れば他には何もいらなかった。

     そう、マザーノッカーさえ居てくれれば…)

 

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<ドアが激しく開く音>

  ルビ「ど、どうしたの?」

マザーノッカー「ル…ビ…様…」

  ルビ「何があったの?」

マザーノッカー「人間を…」

  ルビ「人間?人間にやられたの!?」

マザーノッカー「いいえ…
        …大津波が…ミネガルの人々を襲おうとしたのです…」

  ルビ「大津波?  …まさか、人間を助けたの?」

マザーノッカー「…はい。」

  ルビ「規則を…破ったの…?」

マザーノッカー「…はい。」

  ルビ「どうして…」

マザーノッカー「あのまま放っておけばたくさんの民が死んでしまったでしょう。」

  ルビ「だからって、どうして…」

マザーノッカー「…あの場所には、以前お話した子供が居るのです。」

  ルビ「子供…。 あの、罠に掛かった時に助けてくれたっていう?」

マザーノッカー「そうです。
        あの子を見殺しにする事は出来ませんでした…。」

  ルビ「…決まりを破ったらリヴェリウスが黙っていないわ。」

マザーノッカー「それでも!それでも、ただ見ている事は出来なかったのです…

        うっ…!」

  ルビ「っ!? その足!!」

マザーノッカー「既に罰は受けました。
        私は永遠に石に封じ込められるでしょう。
        
        せめて、完全に石になる前にルビ様とお話がしたくて…」

  ルビ「いや…嫌よ…」

マザーノッカー「ルビ様…」

  ルビ「いや!お願いマザーノッカーを許して!!!」

マザーノッカー「ルビ様。いつかお約束しましたね。私は、ルビ様と永遠に共にあると…」

  ルビ「私からマザーノッカーを奪わないで!!!!!」

マザーノッカー「あの誓いは、必ず…必ず、まも…り…ま…す……」

  ルビ「ぁ… い…や…
     いやぁぁああぁぁあ!!!!!」

    (マザーノッカーは、そのまま冷たい石になってしまった。
     あんなに暖かくて、いつも私に微笑みかけてくれていたのに…

     もう、笑ってくれない…
     何も答えてくれない…

     私の願いは、ただマザーノッカーとの日々が続く事だったのに…
     その為なら、この部屋から出られなくても、
     永遠にリヴェリウスに見向きもされなくても構わなかったのに…

     そんな小さな願いすら、わたしには許されなかったのよ。)

 

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ノッカー「…ルビ様。」

  ルビ「私の昔話はこれで終わり。」

ノッカー「…。」

  ルビ「ノッカー族は昔、魔族の中でもトップクラスの魔力を持っていた。
     だけど、マザーノッカーが決まりを破ってしまった…。

     マザーノッカーは石の姿へと変えられ、ノッカー族は魔力を奪われた。」

ノッカー「…。」

  ルビ「…やっぱり、お前は何も覚えていないのね。」

ノッカー「え?」

  ルビ「ノッカーランドでお前と初めて会った時、私にはすぐに解ったわ。
     だけど、お前には記憶がなかった…」

ノッカー「記憶?」

  ルビ「マザーノッカーは、お前の双子の片割れよ。」

ノッカー「僕の…?」

  ルビ「どうして忘れちゃったんだろうね…

     でも、お前が忘れていても私が覚えてる。
     マザーノッカーの温もりも、優しさも…

     お前は、マザーノッカーに良く似ているわ。

     いつもお前は、強くなりたいって言っているけど、
     私はそのままのお前が好きよ。

     傍に居てくれるだけで、私は自分を見失わずに済むから…。」

ノッカー「どういう…事ですか?」

  ルビ「…さぁ、もう遅いわね。
     早く寝ないと!
     明日も思いっきり遊ぶんだから♪」

ノッカー「…。」

    (いつもの様に笑おうとしているルビ様を見ながら、僕は考えていた。
     
     遠い昔に石に変えられてしまった僕の半身。
     思い出そうとしても何故だか思い出せない…

     だけど、なんだか心の奥にぽっかりと穴が開いているような気がするんだ。

     そしてただ想うのは、ルビ様の傍に居られなくなったマザーノッカーが
     どれだけ辛かっただろうという事。

     そして、ルビ様のマザーノッカーへの想い。

     僕は、少しでもその代わりが出来るんだろうか…。)

 

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ノッカー(それから暫くして、僕は夢を見た。 懐かしくて切ない夢を…)

マザーノッカー「…ます…か…」

ノッカー「…う…うーん…」

マザーノッカー「私の声が聞こえますか?」

ノッカー「だれ…?」

マザーノッカー「あぁ、聞こえるのですね。
        私は、マザーノッカー。」

ノッカー「マザーノッカー…って!」

マザーノッカー「ルビ様が仰ったように、一族の力を奪ったのは私です。

        私は、自分のエゴの為に貴方達から力を奪ってしまいました。
        ルビ様にも辛い想いを…
        
        謝って許される事ではありませんが…」

ノッカー「ううん、なんだかよく分からないけど…。

     僕は魔力が弱くても、ルビ様が僕を必要だって言ってくれるから…
     僕はそれだけで良いって思えちゃったんだ。

     それに、ルビ様は貴方を恨んでなんかいないと思う。

     傍に居れば解るんだ。
     ルビ様は、今でも貴方の事を大切に思ってるって。」

マザーノッカー「貴方は… 昔とちっとも変わらないのですね。」

ノッカー「え? ああ…ごめん、僕、何も覚えていないんだ。」

マザーノッカー「いいのです。…私はずっと貴方とルビ様を見て来ました。」

ノッカー「そうなんだ…」

マザーノッカー「幾度も幾度も語りかけて来ましたが、やっとこうして声が届きました。

        貴方がどれ程ルビ様を想っているのかも良く知っています。

        ルビ様を深く想っている貴方にお話があるのです。
        …どうか、私の願いを聞いてくれませんか。」

ノッカー「お願い?僕に出来ることなの?」

マザーノッカー「ええ。貴方にしか出来ません。
        私では…もうルビ様に語りかける事さえ出来ないのですから。」

ノッカー「死んじゃったから…?」

マザーノッカー「今の私は魂だけの存在。死んだと同じかもしれません。
        ただルビ様のお傍に居たいという想いだけで存在しています。

        けれど、この体では…
        貴方にこうして声を届けるだけで精一杯なのです。」

ノッカー「…。」

マザーノッカー「どうか…どうか…私の願いを聞いてください。

        これは、ルビ様の願いでもあるのです。」

ノッカー「ルビ様の…?」

 (ルビ「……たい。」)

ノッカー「ルビ様の願いって何!?」

マザーノッカー「…聞こえたのでしょう?」

ノッカー「…僕の…聞き間違いじゃないの…?」

マザーノッカー「…ええ。」

ノッカー「そんな!なんで…!!」

マザーノッカー「…私が石にされた後のルビ様の話を聞かせましょう。」

ノッカー「…何があったの…?」

マザーノッカー「私は、リヴェリウス様の規則を破り、
        呪われし者達の手によって石の姿に変えられてしまった。

        けれど、魂は生き続けていたのです…」

 

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  ルビ「ねぇ、マザーノッカー。外の話を聞かせて…」

マザーノッカー(私は、必死でルビ様に語り掛け続けました。)

  ルビ「ねぇ、フルサトに居るキョウダイに会わせてくれるんでしょう?」

マザーノッカー(けれど、私の声はルビ様には届かない…)

  ルビ「ねぇ…」

マザーノッカー(ルビ様はそれでも、石の姿になった私の傍らで…)

  ルビ「…外には、色んな色が溢れているんでしょう?
     空と海はどこまでも青くて、大地には緑が溢れていて… 他の色をまだ教えてもらってない。
     …この部屋には…黒しかないもの…。」

マザーノッカー(来る日も、来る日も…
        ルビ様は私に語りかける。

        けれど…
        喉が張り裂ける程に叫んでも、私の声は…)

  ルビ「ねぇ、マザーノッカー。

     私に話しかけてくれたのは貴方だけなんだよ?
     私の名前を呼んでくれたのは貴方だけ…

     …また、一人になるの?
     この薄暗い神殿の中でたった一人で居るの?

     名前を…呼んで…」

マザーノッカー(ルビ様!!)

  ルビ「…私は…何の為に産まれて来たの…?

     生きる意味がないなら…!」

マザーノッカー(ルビ様は、幾度も自分自身の体をその魔力で傷つけました。

        自分で自分を殺す為に…)

  ルビ「どうして?なんで死ねないの…?」

マザーノッカー(ルビ様の体は、神であるリヴェリウス様の物…)

  ルビ「そう…こんな事まで私には出来ないのね…

     こんな体いらない!!!
     死にたい!ねぇ!!!誰か私を殺してよ!!!!

     一人は嫌…
     ここは、寒いの…
     誰か私の名前を呼んで…」

マザーノッカー(ルビ様は、私の傍らで泣き続けました。
        どんなに時が経とうとも、この時のルビ様の悲痛な叫びを忘れる事はできません。

        私は傍に居ながら、ルビ様に語りかけ続ける事しか出来ませんでした。
        例え、ルビ様には届かなくとも…)

 

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  ルビ「…リヴェリウスの力が消えた…?」

マザーノッカー(どれ程の時が経ったのか…

        ある時、勇者リーユン達の手によってリヴェリウス様が倒され、
        神殿の結界が消えました。

        けれど、あれ程外が見たいと願っていたルビ様は、
        それでも私の傍を離れようとはしませんでした。)

  ルビ「マザー…ノッカー…
     マザーノッカー…」

マザーノッカー(ルビ様は、ただひたすら私を呼び続けました。

        気が遠くなる程の長い時をルビ様は、
        たった一人で自分の存在を呪いながら過ごされました。

        やがて、長過ぎる時がルビ様の心を侵食して行ったのです。


        そしてあの日…)


  ルビ「…ふふ…くすくす。
     ねぇ、マザーノッカー。

     今更私の本来の姿になれたわ。

     解らない?器よ。
     アルカディアの器。

     リヴェリウスが望んだアルカディアが、私の中に入って来たわ。

     笑っちゃうわ。
     リヴェリウスはもういないのにね!

     アルカディアもそれが解っているみたいよ。
     体に入っただけで、奪い取ろうともしないで眠っちゃったわ!

     くすくす。

     馬鹿なアルカディア!
     私の体は不死の体。

     お前はもう私の体から出られないのよ!!
     私と一緒に永遠に生き続けるんだわ!!!!

     おっかしーよね!あははは!!」

マザーノッカー(アルカディア様は、ご自身の子孫の体を次々に使い、生き続けておられました。
        そして、今度はルビ様のお体に入られ眠りにつかれたのです。

        けれど、眠っていてもアルカディア様の力は強大でした。)

  ルビ「私は…

     私は…ル…

     私は…アルカディア…

     ちがう…
     私はルビ!

     ねぇ、そうだよね?マザーノッカー!!

     私は…アルカディア!!!」

マザーノッカー(ルビ様は、アルカディア様の力と、自分を認めてくれる者がいない事で
        徐々に自分自身を見失い始めました。)

  ルビ「私は誰?
     私はダレ…?
     ワタシはダレ!?

     私は、ルビなの?アルカディアなの?
     …わからない。

     死にたい死にたい死にたい死にたい…」

マザーノッカー(必死で自我を保とうとするルビ様を、私はただ見守る事しか出来ませんでした。

        そんな折、異世界から次々と『開くもの』と呼ばれる人間が

        召喚され始めたのです。
        その中には、強い魔力を持つ者もいました。)

  ルビ「異世界の力…」

マザーノッカー(ルビ様は、異質なその力に希望を見出しました。

        もしかしたら、自分を殺してくれる者がいるかもしれない、と…

        そして、ルビ様は神殿を出られたのです。

        ルビ様は、ただひたすらに自分を滅ぼしてくれる者を探しました。
        けれどルビ様の力は強く、『開くもの』達はことごとく敗れて行きました。

        絶望が増すほどに、心をアルカディア様に侵されていくルビ様…)

  ルビ「私はいつまで私でいられるんだろう?
     それとも、もうアルカディアになっちゃってるの…?

     …
     そんな事ない!
     私は私…ルビのままで死にたい…
     今更アルカディアなんかに私の体は渡さない。

     …そうだわ…」

マザーノッカー(ルビ様は必死である場所に向かいました。
        そこは、私の、そして貴方の故郷であるノッカーランドでした。

        ルビ様はそこで貴方に出会い、共に行く事を望みました。
        貴方と居る事で、ルビ様はアルカディア様を押さえ込む事が出来たのです。

        そしてまた、『開くもの』を探す日々。
        
        けれど、今度は絶望ばかりではありませんでした。
        貴方と居るという事は、ルビ様にとって安らぎでもあったのです。

        しかし、それでも…ルビ様の死を望む想いは強く…)

 

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ノッカー「そんな…」

マザーノッカー「それほど…ルビ様のお心は…」

ノッカー「そんな事…」

マザーノッカー「ルビ様をお救い出来るのは貴方だけです。」

ノッカー「…いやだよ。そんなの。」

マザーノッカー「もう、貴方に頼む他ないのです。」

ノッカー「そんなの悲しすぎるじゃないか!!!」

マザーノッカー「それが、ルビ様の一番の願いであってもですか?」

ノッカー「酷いよ…」

マザーノッカー「4000年…。」

ノッカー「え…?」

マザーノッカー「4000年もの気が遠くなるほど長い長い時を、
                ルビ様はご自身を呪って生きて来られたのです。」

ノッカー「4000年…」

マザーノッカー「どうか…どうか…」

ノッカー「…。」

マザーノッカー「ルビ様の魔力は、アルカディア様の力によってさらに増幅されています。
        異世界の力を持ってしても…

        けれど、中にはきっと秘めた力を持つ者が居るはずです。
        その者が長い旅をすれば…きっと……」

ノッカー「ぅ…ぐす…」

マザーノッカー「心の優しい貴方に、こんな事を頼む私をどうか憎んでください。
        
        けれど、ルビ様をお救いするにはこうするしかないのです…

        どうか…どうか……」

 

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ノッカー(目を覚ますと、もうマザーノッカーの気配はなくなっていた。

     その代わりに、ルビ様の優しい笑顔が覗き込んで来た。)

    「ルビ様…」

  ルビ「ん?どうしたの?」

ノッカー「いえ…」

  ルビ「くすくす。なに?まだ寝ぼけているの?」

(マザーノッカー「どうか…ルビ様の願いを…」)

ノッカー「…。」

  ルビ「さぁ!今日も『開くもの』を探すわよ。」

ノッカー「ひらく…もの…」

  ルビ「もう。本当にどうしちゃったの?
     じゃあ、私一人で遊んで来ようかな~♪」

ノッカー「ぁ、い、行きます!
     僕も行きます!!」

  ルビ「うーん。なんか今日の貴方、変よ?」

ノッカー「そ、そんな事ないです!
     ちょっと寝ぼけていただけです!」

  ルビ「そう?ならいいけど!
     じゃあ、行こうか♪」

ノッカー「はいっ!」

 

<戦闘終了>

  ルビ「またハズレ!
     どうしてこんなに人間って弱いの?」

ノッカー(やっぱりルビ様は強すぎる。
     人間なんかがルビ様に勝てるわけがないよ。)

(マザーノッカー「中にはきっと秘めた力を持つ者が居るはずです。
         その者が長い旅をすればきっと…」)

ノッカー「…。」

 (ルビ「こんな体いらない!!!
     死にたい!ねぇ!!!誰か私を殺してよ!!!!」)

  ルビ「もう!次よ!次!」

ノッカー「……ルビ…様…」

  ルビ「なに?」

ノッカー「あの…」

  ルビ「どうしたの?」

ノッカー「ルビ様は…強い者と戦いたいですか?」

  ルビ「もちろん!」

ノッカー「ルビ様はとっても強いですよね…」

  ルビ「うーん、そうね。」

ノッカー「…召還されたばかりの『開くもの』はルビ様には到底敵いません。」

  ルビ「…。」

ノッカー「でも、中には成長すればルビ様を満足させられる者がいるかもしれません。」

  ルビ「成長…」

ノッカー「はい。」

  ルビ「『開くもの』を成長させる…?」

ノッカー「はい。」

  ルビ「そうね!それも面白そう!
     じゃあ、まずは骨のありそうな『開くもの』を見つけないとね♪」

ノッカー「…。」

    (…僕は、知ってる。
     聞き間違いなんだって自分に言い聞かせて来たけど…

     ルビ様が毎晩、僕に気づかれないように『死にたい』って呟いているのを…

     これで…本当にこれでいいんだよね?マザーノッカー。
     これで、ルビ様は救われるんだよね?)

 

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ノッカー(それから僕らは色んな『開くもの』を観察した。
     強い『開くもの』を育てる為にルクツハウゼンという組織も作った。)

 マーチ「ルビ様!今日は何して遊ぶ?」

  ルビ「そうね~。
     この間マーチを探しに来た大人は、ここに辿り着く前に罠に嵌って
     どっか遠くに飛んで行っちゃったし。」

 マーチ「あの人達大丈夫かな…」

  ルビ「大丈夫よ。私は『開くもの』にしか興味がないもの。」

 マーチ「『開くもの』かぁ。早く見つかるといいね!」

ノッカー(ある日、迷い込んできたマーチと言う名の人間の子供。
     ルビ様の何処か寂しげな様子を敏感に感じ取って、ずっと此処に居る。)

  ルビ「それより!今日はキリの武器屋の話よ!」

 マーチ「あー、そうだった。武器屋のおじさんがね~」

ノッカー(ルビ様は、マーチがお気に入りのようだ。
     人間の事をしきりに尋ねている。

     ルビ様がとても楽しそうで…
     つい僕は大事な事を忘れてしまいそうになる。

     …僕は、ルビ様の生きる希望が見つかればと思うんだ。
    
     でも…
     それでも深夜、独りになるとルビ様は繰り返し呟くんだ…)

 (ルビ「早く…私を解放して…」)

 

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<ルビが部屋に駆け込んでくる>

  ルビ「ねぇ!見つけたわ!きっとアタリよ!」

 マーチ「ルビ様?」

ノッカー「アタリ…? 本当ですか!?」

  ルビ「今日、召喚された『開くもの』!
     今までの『開くもの』と違う気がするの!」

 マーチ「わぁ!」

  ルビ「決めたわ。 私、あの子と遊ぶ!」

 マーチ「ねぇねぇ、それってどんな子なの?」

  ルビ「うーん。見た感じは普通の女の子ね。」

 マーチ「へぇ。」

  ルビ「でも、凄く気になるの。」

 マーチ「良かったね!ルビ様!」

  ルビ「ありがとう、マーチ。
     これからどんな事をしてあの子と遊ぼうかしら!」

ノッカー(召喚されたばかりのその『開くもの』は、
     本当にルビ様の願いを叶える者なのだろうか…

     僕は、ルビ様を失いたくはない。

     だけど…
     ルビ様の目の前で、倒れていった何人もの『開くもの』。
     その度に、深い悲しみに潰れてしまいそうなルビ様を、もう…見たくはない。
     ルビ様が望むなら、僕はどんな願いだって叶えて差し上げたい。

     だけど…
     今までだって少しは骨のある『開くもの』はいた。
     でも人間は弱すぎるんだ…
     …そう、人間は弱すぎる。)

 

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ノッカー(次の日の朝早く、僕はこっそりと『開くもの』を見に行った。

     それは本当に普通の少女だった。
     特別な力もないただの人間・・・。
     本当に、こんな弱い人間にルビ様の願いを叶える力なんてあるのだろうか。)

  (ルビ「死にたい死にたい死にたい死にたい…」)

ノッカー(ルビ様の悲しい叫びが僕の頭の中で木霊する。)

    「ルビ様・・・僕はどうしたら・・・」

    (その時、抜けるような青い空を飛ぶ一匹の若い竜が目に入った。)

    「竜族・・・?」

    (竜族は、魔族の中でも上位の力を持っている。
    若い竜でも潜在能力は桁違いだ。
    僕なんかとは正反対・・・。

    でも、どうしてそんな竜族がこんな人間の街の近くにいるんだろう。)

<バサバサッ>

ノッカー「え・・・? こっちに・・・来る!?」

<バサバサッ  ノッカーの近くに降り立つ竜>

   竜「グルル・・・」

ノッカー「え・・・?」

   竜「ガルル・・・」

<どんどん近づいてくる竜>

   竜「ガオーッ!!」

ノッカー「うわぁぁぁ!!!」

<ノッカーの体が光り、魔法が放たれる>

   竜「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

<倒れる竜>

ノッカー「・・・え? 今のは一体・・・?
     僕・・・魔法を・・・?」

    (初めて放った僕の魔法は竜を切り裂き、

    若い竜は血まみれでぐったりとその場に横たわっている。
    あんなに練習をしても小さな風すら起こせなかった僕が、

    若いとはいえ魔族最強の竜を・・・)

    「この力は・・・一体・・・」

<足音が近づいてくる>

ノッカー「はっ! 誰か来る!」

    (僕は慌てて近くの木の陰に身を隠した。
    それと同時に足音が近づいて来る。

    その足音の主は、さっきの『開くもの』だった。

    少女は、竜に驚き逃げようとしていた。
    でも、その竜が今にも死んでしまいそうな大怪我をしていると気付き、

    必死で手当てを始めた。

    その光景を見ながら、マザーノッカーがルビ様に語った人間の子供の話を思い出していた。

    人間は不思議だ。
    魔族を忌み嫌い、根絶やしにしようとする一方で気まぐれにこうして魔族の命を救う。

    大切なものを奪ったり奪われたり・・・
    憎しみ合うのが魔族と人間の関係の筈なのに・・・

    少女は竜の治療を終え、疲れ切ったのかそのままその傍で眠ってしまった。

    なんて無防備なんだろう・・・。
    弱い人間のくせに・・・。

    竜が目覚めたら、きっとあの少女は竜に殺されてしまうだろう。
    ルビ様の悲しむ顔が浮かぶ。

    竜が少女を噛み殺す前に何とかして助け出そう。
    あの少女がルビ様の願いを叶える事が出来るのかどうかは分からないけれど、
    少しでもルビ様が心から笑っていられるように・・・。)

   竜「グルル・・・」

ノッカー「!!」

    (竜が目覚めた!
    僕は、もう一度魔力を込めようとした。)

    「あれ・・・?」

    (さっきみたいに魔法を打つどころか、魔力さえ込められない。)

    「なんで?どうして!?」

   竜「グルル・・・」

ノッカー(竜がゆっくりと少女に顔を近づける。
    ルビ様の悲しい顔が浮かぶ・・・。

    ルビ様・・・!

    けれど、竜は少女を襲うどころか愛おしそうに顔を数回舐めた。)

   竜「グルル・・・」

ノッカー「え・・・?」

    (そして、そのまま竜はそっと飛び立った。

    竜は多分、薄れる意識の中、必死で傷の手当てをする少女を見ていたんだろう。
    奇妙なその人間と魔族のやり取りに混乱しながら、竜の姿が見えなくなるまで見送った。)

 

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ノッカー(その後、少女が無事、街に戻るのを見届けてから、僕はまたルビ様の元へと戻った。

     戻ってから、何度かあの力を使ってみようとした。
     でも、何度試してもやっぱりあの時のような魔力は使えなかった。

     なんだったんだろう。あの力は・・・。

     でも嫌な予感がする。
     思い出さなくてはいけない様な・・・
     思い出してはいけない様な・・・。

     どちらにしろ、ちゃんと使えないなら意味がない。
     あの力の事は、今は忘れる事にしよう・・・。


     それから僕は、時間さえあれば『開くもの』を見ていた。

     少女は相変わらず普通の少女でしかなくて・・・。
     でも、一生懸命に生きていた。

     その後、再びあの竜と出会い、仲間になった。

     マザーノッカーはルビ様に言っていた。
     「人は、魔力が無い代わりに強力し合って生きている」と。
     それなら、『開くもの』は竜の力を得て、

     ルビ様の願いを叶える者になれるのかもしれない。

     僕には、見守る事しか出来ないけれど、その小さな希望に賭けてみる事にした。

     そして、気づいたんだ。
     あの『開くもの』はルビ様に似ている…

     なんだろう。
     なんとなく…似ている気がするんだ。)

 

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ノッカー(やがて『開くもの』は、数々の困難を乗り越え、強く…強くなった。
     ルビ様は、その成長をとても楽しそうに見ていた。)

  ルビ「くすくす。 凄いね、人間は本当に成長するんだ!

     でもまだまだだね、もっともっと強くなってくれないと。

     その為に私がいっぱい遊んであげる。
     死なないでね。誰にも殺されないでね。
     貴方を殺すのは私、私を殺すのは貴方…

     くすくす…」

ノッカー(ルビ様の心は限界だった。

     気が遠くなる程の絶望の時間と、身体の中に潜む強大な力。
     休まる事のない心は、今にも千切れてしまいそうだった…


     やがて、『開くもの』は仲間と共に復活したリヴェリウス様をも倒し、
     砂時計までも破壊した。)

  ルビ「そう…
     あの子リヴェリウスの力を手に入れたの。

     …
     ……

     くすくす。
     あーはっはっはっ!

     ねぇ、アルカディア見てる?
     アンタの愛しいあの人は、アンタじゃなくてあの子を選んだみたいよ!!

     今、どんな気分?
     ねぇ、どんな気分なの?

     黙ってないで教えてよ!!!

     そう。
     じゃあ、アンタはそうやって閉じこもってなさいよ!

     私は、あの子と遊んでくるわ♪
     私の望んだ子よ!

     絶対アタリだわ!!

     あーはっはっはっ!」

 

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ノッカー(そして、ついに…ルビ様の望む時がやって来た。

     ルビ様が願い、マザーノッカーが願い、そして僕が願った事…

     何が正しいかなんて解らない。
     ただ僕は、ルビ様に笑っていて欲しかった。

     心から…笑っていて欲しかったんだ…)


<ドサッ(倒れる音)>

  ルビ「…」

ノッカー「ルビ様!」

<ノッカーが駆け寄る>

  ルビ「…ね?やっぱり、あの子はアタリだったわ。」

ノッカー「ルビ様…。」

  ルビ「不思議ね。人間は、皆死ぬ時に痛そうだった。
     私は何ともないの。

     こんなに血が出ているのにね。」

ノッカー「…。」

  ルビ「手を貸して…」

<血を流しながら奥の部屋へ>

ノッカー(ルビ様は、最後の場所にここを選んだ。

     ここは、ルビ様が育った場所。
     ルビ様とマザーノッカーの思い出の場所。

     奥の部屋には…マザーノッカーの石像がある。)

  ルビ「マザーノッカー、これで私はやっと自由になれるのね。」

ノッカー「…ぅ…ぐす…」

  ルビ「泣く事なんてないわ。
     これは、私がずっとずっと望んでいた事なんだから。」

ノッカー「…でも」

  ルビ「ふふ、楽しかったなぁ。
     お前と二人で色んな所に行ったわね。」

ノッカー「はい…」

  ルビ「お前が居てくれたから、色んな色が見れた。
     お前が居てくれたから、私は私のままで死ねる。」

ノッカー「…。」

  ルビ「最後の命令よ…」

ノッカー「え?」

  ルビ「お前は、自分で死を選ばないで。」

ノッカー「ルビ様…」

  ルビ「お前には幸せになって欲しいの。」

ノッカー「僕は!僕は、ルビ様と居られて幸せでした!
     これ以上の幸せなんてありません…」

  ルビ「ふふ。ありがとう。
     私もとっても幸せだった。」

ノッカー「ルビ様…」

  ルビ「ね、次は私、人間に生まれたいわ。
     弱くて、すぐ死んじゃう人間に…

     人間って不思議ね。
     あんなに弱いのに皆一生懸命生きてた。
     キラキラ輝いてた。

     私もそんな生き方をしてみたい。」

ノッカー「その時は、また僕をお傍に置いてください。」

  ルビ「そうね。お前とマザーノッカーと…
     きっと楽しいでしょうね。」

ノッカー「はい。」

  ルビ「…あの『開くもの』は、これからどうなるのかしら。

     私と良く似たあの子。
     リヴェリウスの血と力を受け継いだ…

     アルカディアは、次にあの子を選ぶかしら。
     リヴェリウスを殺し、リヴェリウスに選ばれたあの子の身体。

     …見届けられないのが残念ね。


     これは…?」

<光が降り注ぎ、マザーノッカーが現れる>

ノッカー「あ…」

マザーノッカー「ルビ様…」

  ルビ「あぁ、マザーノッカー、貴方なのね。」

マザーノッカー「はい、ルビ様。」

  ルビ「4000年… 随分待たせちゃったわね。」

マザーノッカー「いいえ、やっとこうしてお迎えに上がる事が出来ました。」

ノッカー「マザーノッカー…」

マザーノッカー「私が頼んだとはいえ、貴方には辛い選択をさせましたね…」

ノッカー「…」

マザーノッカー「貴方のお陰で、今、ルビ様は永遠の牢獄から解き放たれます。」

ノッカー「…うん」

マザーノッカー「心からお礼を言います。
        ありがとう…私の大切なもう1人の私…」

ノッカー「ぁ… ぼ、僕…」

  ルビ「おいで…抱きしめさせて頂戴。」

ノッカー「はい…ルビ様。」

  ルビ「私は、光になりたかった。
     あの光に触れたかった…

     お前のお陰で光に触れる事が出来たわ。」

ノッカー「ルビ…様…」

  ルビ「大好きよ…ありが・・とう…」

ノッカー「ルビ様!」

    (いつもの様に…
     いや、いつもよりずっと穏やかに微笑むルビ様を見送りながら
     僕は何かを思い出していた。

     それは、遥か遠い昔の記憶…

     ある時、僕の大切なあの子がこの世界から消えてしまった。
     それと同時に僕以外のノッカー族の魔力が衰退してしまった。

     それから、毎日のように夢を見たんだ。
     黒い髪の少女が、大切なあの子の傍で泣く夢を。
     遠い国で起こった、悲しい出来事を。

     そして僕は、その記憶と一緒に自分だけに残った力を封じた。
     その力はあってはいけない物だと悟ったから。

     だから、僕はもう一度封印する。

     今度はその力だけを…

     大切なあの子と、
     そして、愛しい少女の記憶はそのままに…)

 

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『開くもの』よ。
運命の子よ。

これから貴方の進む道は長く険しいでしょう。

その道を選ばせたのは私です。


私の存在を知らぬ子よ。

私の…ルビ様のたった一つの願いを叶えてくれて感謝します。

貴方の進む道に一滴の光が在らん事を…


……」

​●COMMENT●

劇団Landkarte初の作品がやっと完成しました!

とは言っても、実は台本自体は8年くらい前には出来上がっていました。

​出演してくれる方を模索しているうちに、劇団あんだんても解散してしまい、日の目を見る事なく眠っていた作品です。

それがこうしてきちんと形になった事はとても感慨深いものがあります。

しかも、劇団あんだんての最初の作品であった『クロスゲート~ルビ編~』のリメイクが劇団Landkarteの最初の作品になるなんて…

わたしの中では色々な想いが沢山詰まった思い入れの深い作品となりました。

 

ルビを演じるにあたって、叫ぶシーンが多い事や、叫ぶ内容が内容なので違う意味での苦戦もしました。(通報されなくてほっとしています…w)

けれど長年作りたくても作れなかった作品だっただけに、録音も編集もとても楽しく出来ました。

これから劇団Landkarteがどんな物語を作っていくのかはまだ分かりませんが、今までと同様に、いえ、それ以上に楽しくやっていきたいと思います。

最後に、急なお誘いに嫌な顔ひとつせず団員になってくれたしじみさん、台本作成していた当時、相談に乗ってくれた方々、そしてもちろんこの作品を聞いてくださる全ての皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです!

 

                              そんちゃん(ルビ)

こんにちわ しじみです
今回、ボイスドラマ初挑戦だったわけですが
録音めっちゃ大変でした
マザー・・・?
高めの声を出し続けるのは結構難しかったです
なかでも大変だったのは「ふふっ」って笑うところですね
そんな笑い方した事ないので自分で言ってて気持ち悪かったですねw
マザーノッカーが徐々に石化していくシーンではどのくらいのスピードで
どこから石化しているのかそんちゃんに確認したら「え?」って言われたり
初のボイスドラマ演じてみて、大変やなって気持ちが正直なところですね
うまく演じれたかはよくわからないですが、いいモノができたとは思っていますw

 

​                           しじみ(マザーノッカー)

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